京都 田舎のぜいたく、農家民泊脚光 再来日の外国人客も
2016年03月23日
京都 田舎のぜいたく、農家民泊脚光 再来日の外国人客も
京都 田舎のぜいたく、農家民泊脚光 再来日の外国人客も
農村生活を体験できる「農家民泊」が注目を浴びている。自然豊かな京都府北部の綾部市や福知山市などには個性的な宿が点在し、都市部の人たちに加え、増加する訪日外国人が里山の暮らしを楽しもうと足を運ぶ。有名な観光地やツアーでは味わえない魅力を、記者も宿泊して取材した。
■いろり端で過ごす時間
「パチッ、パチッ」。いろり端で、まきのはぜる音が新鮮だった。まだ肌寒い2月下旬、綾部市十倉名畑町の「農家民泊 健ちゃん村」。宿泊客の韓国人大学生、朴基雄(パクキウン)さん(23)は「思い描いていた本当の日本を感じる」と、手をあたためながらしみじみ語った。
健ちゃん村は、京都縦貫自動車道の京丹波わちインターチェンジから車で約15分、山あいの府道沿いにある。大阪市で会社員をしていた篠塚健二さん(72)が14年前、養蚕農家だった古民家を購入し、定年退職後に移り住んだ。露天風呂や里山風景を一望できるウッドデッキを手作りし、2009年に開業した。斜面に設置した竹のブランコでは、サルがよじ登って遊んでいたこともあったそうだ。
そんな環境に引かれ、都会の若者や家族連れが毎月1組ほど宿泊。山菜摘みや川遊び、まき割りなど季節ごとの体験を楽しめるのが魅力だ。韓国人旅行者や中国の修学旅行生を受け入れたこともある。
■自給自足の味わい
日が暮れたころ、自作したり近所の農家からもらったりしたネギや白菜などが食卓に並んだ。「ほとんど自給自足。田舎のぜいたくを味わえる」と篠塚さん。いろりで鍋料理にすると、ほくほくの湯気が立ち上った。朴さんは珍しそうにスマートフォンで撮影。地域住民らが入れ替わりやって来て談笑していった。
朴さんはこれまで3回来日したが、訪れたのは東京や大阪といった大都市ばかり。「地方の暮らしを見たい」と、綾部市観光協会で1カ月間の就業体験に挑戦。同市や府北部の魅力を韓国語の個人ブログで発信する仕事などを担当した。
宿泊を勧めた観光協会の竹市直彦事務局長(51)は「外国人の受け入れ数を増やしたい。韓国人の目線から農家民泊の魅力を発信してほしい」と期待する。
翌朝。アイガモの鳴き声で目が覚めた。朝食は地元の野いちごにヨーグルトをかけて味わった。
続いて、近くの農業井上豊秋さん(66)の指導でそば打ちを体験した。朴さんは韓国ではなじみの薄いそばに興味津々。「細く切るのは難しい」と悔しそうに何度も麺切り包丁を入れ直すと、井上さんから「韓国にそば打ちの弟子ができた」と声を掛けられ、はにかんだ。
「韓国人にとって、日本といえば秋葉原や大阪城を想像しがち。地方で日本人と一緒に体験したことを多くの人に伝えたい。観光客ではなく家族のように接してくれた」。朴さんは名残惜しそうに宿を後にした。
ニュータウンで生まれ育った記者も農家に泊まってみて、田舎暮らしの豊かさを堪能した。篠塚さんは「田舎のありのままの生活が人を引きつけている。自然に囲まれて人との交流がある農家民泊は、里山の新しい可能性だろう」と話す。