京都 【衝撃事件の核心】「もう、あかんな」〝廃屋の大泥棒〟

2016年03月08日

京都 【衝撃事件の核心】「もう、あかんな」〝廃屋の大泥棒〟

京都 【衝撃事件の核心】「もう、あかんな」〝廃屋の大泥棒〟大捕物 空き巣100件、手口分析と包囲網…刑事の執念が追いつめた! 

京都府八幡市の廃屋を拠点に、京都や大阪、奈良、愛知の4府県で、100件近くの空き巣を繰り返していた男を京都府警伏見署などが2月5日、窃盗と住居侵入の疑いで逮捕した。犯行数の多さと手口の巧みさから、捜査員たちが「大泥棒」という異名で呼んでいた男だった。伏見署は緻密に手口を分析しながら犯人に迫り、手配のチラシを貼っていたコンビニ店の店長からの通報が最終的な決め手となって逮捕に結び付けた。

「自分へのご褒美」はサウナ

 逮捕されたのは、住所不定、無職、佐藤隆司容疑者(55)。逮捕容疑は昨年10月1日、京都府長岡京市内の民家に侵入し、現金約15万円を盗んだとしている。その後、窃盗罪などで起訴された。

 佐藤被告は平成21年から京都、大阪、奈良、愛知の4府県で100件近くの空き巣を繰り返し、昨年12月に京都府警が全国に指名手配していた。泥棒で生計を立てる“職業泥棒”だった。

 その手口も巧妙だった。鍵穴をライターであぶり、ドライバーでこじ開けるなどして家屋に侵入。現金を小銭まで根こそぎ盗み、冷蔵庫を開けてその場で食べ物を食べる余裕までみせていた。

 佐藤被告は「1回で360万円を盗ったこともある」と供述。普段は廃屋の中でひっそりと暮らしていたが、まとまった金額が手に入ったときには、「自分へのご褒美」として他府県のサウナに通ったり簡易施設に泊まったりしていた。

 伏見署は今後も捜査を進め、裏付けがとれた事件について追送検する方針だ。

立ち回り先を集中捜査「八幡に生活拠点」

 伏見署が佐藤被告を特定したのは、昨年10月に京都市伏見区のアパートで起きた窃盗事件だった。

 付近の防犯カメラに写った姿を見た1人のベテラン捜査員が、佐藤被告だと気づいたのだ。同様の犯行を繰り返していたとみられることもあって本格的な捜査をスタートさせた。

 伏見署刑事課盗犯係を中心に最大20人態勢で、各地の被害現場周辺などの聞き込みを実施。佐藤被告が立ち回った形跡があるコンビニや宿泊施設など約250件を突き止め、写真を片手に順番に回った。

 具体的な目撃情報があれば、周辺を集中捜査。空き家などに潜んでいる可能性があるとみて、立ち回り先の周囲の空き家の捜査も細かく行った。

 そんな地道な捜査を重ねた結果、次第に佐藤被告の行動範囲が見えてきた。京都府八幡市周辺で目撃情報が集中していたのだ。

 大泥棒は八幡市内に潜伏している?。連日の聞き込みに靴の底をすり減らしていた捜査員たちは色めきたった。八幡市近辺の立ち回り先のコンビニにチラシを配り、繰り返し情報提供を呼びかけたところ、あるコンビニの女性店員から「それらしき人物とすれ違った」と通報があった。

 「近くに生活拠点があるに違いない」。捜査員たちは確信を強めた。

捜査員の姿に逃げるそぶり見せず

 執念の捜査で大泥棒の包囲網を敷く捜査員。大捕物はついに大詰めを迎えようとしていた。

 最終的に逮捕のきっかけとなったのはコンビニ店長からの通報だった。

 2月5日午後6時過ぎ、八幡市内のコンビニ店長(59)から「(佐藤被告と)似たような人物が見つかりました」という電話が入った。

 捜査員たちはすぐに車で現場近くへ。そのコンビニ周辺で張り込みをし、佐藤被告の姿を確認。コンビニから約1キロ離れた廃屋から出てきた瞬間、捜査員たちが車を降りて佐藤被告に近づいた。「佐藤さん?」と尋ねて警察手帳を見せると、捜査員が何も言わないうちに「分かってました」と静かに答えた。

 捜査関係者によると、佐藤被告は当時、捜査員の姿を見ても逃げるそぶりは見せず、むしろ待っているような様子だった。「もう、あかんな」。そうつぶやき、どこか悟ったような表情をしていたという。

 逮捕時に立ち会った若い捜査員は「ずっと追いかけていたので、胸が高ぶって緊張感もあった」と振り返る。この捜査員は実は広域窃盗犯の捜査は初めての経験だった。目撃情報を手がかりに写真を持って必死に立ち回り先を回った。「『見たことがある』という情報を追う日々だった。写真でしか顔を見たことがなかったので、実際に会ったときに分かるかどうか不安があった」と吐露した。

 後日、取り調べで佐藤被告は「車のドアを開く音が聞こえて、正直逃げたろうかと思った。でも、やめた。潮時だと思った」と語り、捜査員はその言葉を聞いて「捕まえてほしかったのかな」と感じたという。

 逮捕時の様子について、別の捜査員は「長年泥棒をしていただけあって、包囲網が徐々に迫ってきていることを感じていたようだった」と語った。

廃屋に布団持ち込む

 佐藤被告が生活拠点にしていた廃屋。実は捜査員が隣の空き家を調べたことがある場所だった。空き家をのぞき込む姿に佐藤被告が気づき、息を潜めてやりすごしたという。

 逮捕後は容疑を認め、「生活費を稼ぐために、100件近くやった」と供述している佐藤被告は徳島県出身。大阪に出てきてから窃盗を繰り返し、刑務所を出たり入ったりの生活になり、親類とは疎遠になった。

 八幡市の廃屋には5年ほど前から住みつき、自分で布団を買って持ち込んでいた。近所の人も「夜に音がしていておかしい」と感じていたらしい。

 伏見署幹部は「一つ一つ手がかりを積み重ねた結果。刑事の執念が勝った」と語る。同署は逮捕に貢献したとして、コンビニの店長に感謝状を贈呈した。

 店長は、捜査員が容疑者の写真を持って繰り返しコンビニを訪れていたと話し、「事務所に写真を貼って毎日見ていた。電話1本でこんなに感謝されるなんて、恐縮です」とはにかんだ。

 店長の通報について、伏見署の田中彰署長は「さらなる被害を食い止めてくれて、非常に感謝している。今後も、警察と地域が防犯への共通意識を持って警戒していきたい」と話した。



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