京都 「難しすぎる!」〝とんがった人材〟求めた京大特色入試
2016年02月20日
京都 【関西の議論】「難しすぎる!」〝とんがった人材〟求めた京大特色入試 合格者厳選に早くも見直し論…ゴリラ研究総長の胸の内
京都 【関西の議論】「難しすぎる!」〝とんがった人材〟求めた京大特色入試 合格者厳選に早くも見直し論…ゴリラ研究総長の胸の内
大学入試シーズンが本格化する中、京都大がユニークで個性的な人材を集めようと、今年度から実施した「特色入試」に対し、受験生ら関係者から「難しすぎる」という声が上がっている。一足先に発表された医学部医学科(定員5人)では、合格者はわずか1人。受験資格からハードルが高いとの声が目立ち、京大内部では早くも特色入試の見直し論も浮上する。ただ、特色入試は、これまでのように各科目で高得点を取る秀才的な学生ではなく、特定の分野に偏っていても卓抜した能力を発揮する「とんがった人材」(大学関係者)というコンセプトがある。そんな人材を発掘するには、「該当者がいなければ合格者ゼロでもいい」という声もあるのだ。(西川博明)
合否や受験資格に「?」
「えっ、合格者1人?」
1月13日正午ごろ、京大吉田キャンパス(京都市左京区)で行われた特色入試初の合格発表。定員5人の医学部医学科の合格者番号が掲示板に張り出されると、驚きの声が上がった。
最先端の医学を研究し、将来のノーベル賞候補を育てることが期待される医学科の特色入試。昨年12月22?23日、理科を題材にした小論文と面接が実施された。受験生は5人で、志願者倍率は1倍だった。
京大側は、合格者をわずか1人にとどめた理由について「答えられない」(医学部)と明らかにしていない。注目されていた高校2年の飛び級合格もなく、意外な結果となった。
今回、京大が行った特色入試について、受験関係者はどう受け止めたのだろうか。話を聞くと、厳しい指摘が聞こえてきた。
例えば、京都市内にある大手塾関係者は「合格ラインがはっきりせず、ブラックボックス化している」と語る。合格基準もシビアだが、そもそも、受験資格を得るまでの条件面だけでも相当、難しいというのが特徴だ。
国際科学オリンピック日本代表の「壁」
医学部医学科では、京大の全10学部の特色入試で唯一、1月の大学入試センター試験の受験は免除したものの、受験生の英語力をみるためにTOEFL?iBTのスコア(120点満点)では、大学留学レベルの83点以上を求めた。
さらに「国際科学オリンピック(数学・物理・化学・生物)日本代表で世界大会に出場した者」という条件も出した。
こうした条件面に該当する受験生だけでも相当少ないはずだ。
また、受験概要が示されたのは昨夏とあって、準備期間の短さを指摘する声もあった。
京大合格者の多い地元の進学校、私立洛南高(京都市南区)は今年、医学科特色入試に受験生1人を送り出した。だが、阿部久則学年主任は「生徒に受験指導をするにしても、TOEFLのスコアといった受験条件が夏の時期に示されては、なかなか受験対策が間に合わない」とこぼした。
難関大への進路指導は、進学校ならば受験指導を数年間かけて行うのが通常だといい、「せめて特色入試の受験概要だけは数年前から示してほしい」と話す。
今回の特色入試では、京大全10学部のうち、学部・学科によっては、募集定員に対し、志願者倍率が1倍に満たない定員割れの状況も目立った。
工学部地球工学科(定員3人)や工学部工業化学科(同若干名)は、志願者が0人。国際数学オリンピックなど国際科学競技会での実績が必要だったのだ。
このほか、医学部人間健康科学科作業療法学専攻(同3人)と薬学部薬科学科(同3人)は0・7倍、工学部情報学科(同2人)は0・5倍?だった。
一番人気は理学部
一方、医学部医学科と同様、ノーベル賞受賞者を多数輩出してきた理学部(定員5人)は志願者が59人。志願者倍率は11・8倍と全10学部の中で1番人気となった。他学部・学科に比べ、厳しい受験条件がなかったためだ。
ただ、昨年11月28?29日に実施された理学部の2次試験(筆記試験と面接)で出題された数学の問題は「4時間で4問を解く。普通の試験ではありえない」(山極寿一・京大総長)という超難問が出題された。
問題冊子はA4用紙でわずか5枚。問題をみると、やはり難問ばかりだ。
例えば?。
《nを3以上の整数とし、kを自然数とする。表裏の区別の付くn枚のコインを用いて1人で以下のゲームを行う。
・まず、ゲームの初期状態として、n枚のコインを円周上に等間隔で並べる。各コインは表または裏である。
・以下の操作を何回か繰り返す。(操作)並べたコインの中から連続するk枚を選び、選んだコインをすべてひっくり返す。
・この操作を何回か行った結果、すべてのコインを表にすることができれば、ゲームは終了する。
以下の設問に答えよ。
(1)n=7、k=3とする。初期状態が図1のとき、このゲームを終了させることができることを示せ。また、すべてのコインを表にするまでに必要な操作の最少回数を求めよ。
(2)n=6、k=3とする。初期状態が図2のとき、このゲームを終了させることはできないことを示せ。
(3)どのような初期状態であっても必ずこのゲームを終了させることができるための、n、kに関する必要十分条件を求めよ》
こうしたコインを使ったゲームの問題など4問の筆記試験。受験生は4時間かけて挑んだが、ここで受験生は59人から一気に5人へと絞られた。
法学部と医学部医学科を除いて行われた2月10日の特色入試の合格発表では、志願者287人で定員は83人だったが、理学部の5人を含め、合格者は計59人だった。
〝とんがった人材〟を求めた特色入試。マークシート方式の大学入試センター試験の受験(医学部医学科以外)もあり、学内関係者からは「受験生の負担が多く、新たな試験制度と言えるのかどうか」といった疑問の声も聞こえてくる。
「頭で考える学生」求む
ゴリラ研究の第一人者としても知られる京大の山極総長は特色入試について、高校生や教諭らからヒアリングした結果、「初めての試験で戸惑った方は多いかもしれないが、理念にはご理解いただいている」と一定の評価を示す。
ただ、受験する側の声として「募集人員が少ないという意見が多い」。今回は全10学部で新年度の入学生の数%に相当する約110人を募集した。次年度以降は段階的に募集定員を増やしていく方針。TOEFLのスコアや国際数学オリンピック出場者といった受験条件が厳しすぎる?との意見を踏まえ、今後改善も検討するという。
山極総長は、自由な学風が売りである京大キャンパスを「ジャングル」に例える。特色入試を通じ、受験テクニックを駆使して合格する受験秀才だけでなく、「『学びの設計書』を自分で書き、自分の将来構想を持つ中で、自分の頭で考え、他人にはできないことを目指す個性が表われるような学生を求めたい」という狙いがあるからだ。
難関を突破した個性の強い〝京大生〟は今後、どんな人材に育っていくのだろうか。