2016年07月31日
京都 「親子で行く修学旅行」を体験、その特徴は 国の補助金活用、何が違う?
京都 「親子で行く修学旅行」を体験、その特徴は 国の補助金活用、何が違う?
文科省と国交省の協力により、補助金を受けて実施されているツアー「親子で行く修学旅行」。補助金は内容をより充実させる方向に使っているといい、それでいったい何が体験できるのか、また「親子」で「修学旅行」に行くことの意味はどこにあるのか、そのツアーに参加し、探ってきました。
修学旅行、心残りはないですか?
埼玉県内の中学校に通っていた筆者(恵 知仁:鉄道ライター)は、その修学旅行が「京都・奈良」でした。(公財)全国修学旅行研究協会の資料によると、関東5県にある公立中学校のうち約9割(2014年度)が関西方面へ向かっているそうで、いまも昔も、関東では大定番の修学旅行先でしょう。
1989(平成元)年に私が中学校の修学旅行で「京都・奈良」へ向かったとき、修学旅行専用の新幹線(初代新幹線の0系)に複数の中学校が相乗り。東京-京都間を往復し、鉄道ファンとして大興奮した覚えがあります。
しかし、それから年齢を重ねて思い起こすと、残念なこともあります。修学旅行ではさまざまな名所旧跡を巡りましたが、当時はそれらを深く理解できなかったことです。それから一応、学校や書籍などで知識を増した現在なら、より楽しめるだろうなと。中学校の修学旅行は、そんなものかもしれませんが。
そうしたなか2016年6月、「お子様と一緒に修学旅行を再体験」を売り文句にしているツアーを体験する機会がありました。JR東海ツアーズの「親子で行く修学旅行」です。
京都と奈良のツアーがあり、文部科学省と国土交通省の協力で「文化庁文化芸術振興費補助金(文化遺産を行かした地域活性化事業)」を受けているのが特徴のひとつ。2013年から2016年6月までに53回実施され、およそ2900人が参加しています。
またその補助金は、単にツアー代金を安くするのではなく、珍しい体験ができたり、僧侶など現地の人から説明を受けられるなど、歴史と文化に直接触れられるよう、「特別授業」の内容を深める方向に使用しているのもポイント。JR東海によると、代金の割に充実した内容になっており、このツアー限定の体験ができることから、親子の参加者にとても好評だそうです。京都市産業観光局の牧山さんは「このツアーは参加者の満足率が非常に高く、リピーターも少なくないです」と話します。
僧侶が案内 キヤノンの技術を駆使した「国宝?」のある寺
今回、筆者が体験した「親子で行く修学旅行」は京都のもの。同地は歴史が長いため「戦国時代コース」と「幕末コース」の2種類があります。
「戦国時代コース」で訪れる、1202(建仁2)年に建立された京都最古の禅寺である建仁寺(京都市東山区)では、「特別授業」として「朝の特別貸切公開」が行われました。ほかに拝観者がいないなか、同寺の僧侶が案内してくれます。
この建仁寺は、俵屋宗達による国宝「風神雷神図」を所蔵していますが、本物は京都国立博物館にあり、展示されているのはレプリカです。しかしこのレプリカ、キヤノンの技術で印刷したうえに金箔(きんぱく)を貼っており、博物館の学芸員でも本物と見分けるのが難しい品質なのだとか。
ちなみに、「観音」が由来である「キヤノン」の名付け親が建仁寺の人物だ、という説もあるそうです。
建仁寺の創建800年を記念して製作された、天井に広がる「双龍図」。右側に描かれている龍を見ながら出口へ向かうと、龍が自分を見続けるように見えるそうで、確かに、不思議でした。
またこの建仁寺は、戦国時代に毛利氏の外交僧として織田信長、豊臣秀吉との調停に尽力した安国寺恵瓊(あんこくじえけい)に深いゆかりがあります。恵瓊は、荒廃していた建仁寺を復興。しかし「関ヶ原の戦い」(1600年)で西軍につき、敗北して京都の六条河原で処刑されました。ただ、首は川に流され「あとは知らない」となり、建仁寺で回収、供養することになりますが、墓標にその名前を書くと江戸幕府から目をつけられるため、あえて小さな目立たないものにされたそうです。
こんな「説明板にはない裏話」を聞けるのは、その僧侶から直接話を聞けるこうしたツアーらしいところでしょう。
注目高まる「競技かるた」、圧巻の元クイーン
「親子で行く修学旅行」では、知っているけどよくは知らない“京都らしい「特別授業」”も受けられました。
まず「競技かるた」です。藤原定家が『百人一首』を編さんしたとされる小倉山の麓、嵐山には「小倉百人一首殿堂 時雨殿」(京都市左京区)があり、「幕末コース」ではそこで「競技かるた」ができます。
「かるた」のルールは多くの人が知っていると思いますし、最近ではマンガ『ちはやふる』の影響でそれに興味を持っている人が増えているそうですが、「競技かるた」は札の並べ方やそれを取るときなど、ルールがかなり違うもの。そこでこの体験では、まず実演付きで「競技かるた」の解説が行われました。
このとき対応してくれたのは、荒川裕理元クイーンと加藤楓美香四段。最初、優しく笑顔で札の並べ方などを教えてくれたのち、実演に入ったのですが、驚きました。ふたりの表情が変化。歌が読まれている最中、相手とまさに対峙(たいじ)するよう身を乗り出し、全身に集中力と気迫をみなぎらせる「静」の状態から、取る札が判明したときの非常に素早く、かつ札を「取る」のではなく、目的の札を含む複数の札をまとめて豪快に「払う」動作。この「静」から「動」へのギャップと迫力、緊張感。さすが「元クイーン」と「4段」だと、そのいきおいに圧倒です。
「競技かるた」初体験の筆者には札がどこで払われるかよく分からず、また払う際は突如、非常に素早く行われるため、写真撮影は大変でした。しかしこうしたトップレベルの人たちによる“印象に残る実演”で、「競技かるた」への興味は嫌が応にも高まります。
そしていよいよ、「競技かるた」の体験です。ルールが一般的な「かるた」とは違うため、まったくの素人には少し敷居が高いゲームだと思いますが、プレイしながらどうすればよいか教えてくれるため、変化する「きまり字」と必要な「戦略」など、「競技かるた」の楽しさが少し分かった気がします。親子でのよいコミュニケーションにもなるでしょうし、これをきっかけに『百人一首』へ関心を持ち、学問や教養に繋がるかもしれません。
むしろ子どものうちに体験すべき「特別授業」も 恥をかくのを防ぐために
今回、参加できた「親子で行く修学旅行」におけるもうひとつの、知っているけどよくは知らない“京都らしい「特別授業」”は、「戦国時代コース」の高台寺(京都市東山区)で行われる「畳の部屋での作法」です。
豊臣秀吉の正室である北政所(高台院)が秀吉の冥福を祈るため建立した高台寺(京都市東山区)では、そうした歴史を現地ガイドから聞くことができるほか、「ふすまの開け方」「歩き方」といった「畳の部屋での作法」を学べます。
ここでは「ふすまを閉めるときは少し音が出るように閉める」「畳の上では同じテンポで歩く」「畳のへりは踏まない」といった作法を、それぞれ「閉まったことが周囲に分かるように」「持っている水などがこぼれないように」「畳が痛むから」といった理由とともに、教えてくれました。「作法」はただのマナーではなく合理的な「理由」もあるわけで、押しつけられるのではなく、このようにその背景まで分かるとより得心もいき、身につくのではと思います。
近年では畳の部屋が少なくなった関係で、その作法は「テーブルマナーより知られていないかもしれません」とのこと。この記事の冒頭で「京都・奈良の修学旅行は大人のいまならより楽しめるだろうな」と書きましたが、この体験については子どものうちに経験しておくべきかもしれません。思い起こせばこれまで何度、恥をかいてきたことか……。親子で作法を学ぶことで、帰宅後も継続的に家庭全体で作法について意識でき、それがあたりまえになる、将来、大人になって畳の部屋で食事する際などに無用な恥をかかなくてすむ、感心されるといったメリットがあるかもしれません。
思い出した中学時代の修学旅行と国語の授業
また、あまり広くは知られていない“京都らしい「特別授業」”も受けられました。「幕末コース」で訪れる壬生寺(京都市中京区)では「地蔵盆」について僧侶から教えてもらい、「数珠まわし」を体験。大きな数珠を数人で祈りながら回していくもので、京都ではいまなお広く行われている風習なのだとか。
また壬生寺は、江戸時代末期に反幕府勢力を取り締まる活動などをした「新撰組」にゆかりの深い寺院、その「新撰組」にまつわる「壬生塚」についても、僧侶から案内を受けることができました。
ちなみに壬生寺は律宗で、唐招提寺(奈良県奈良市)の末寺。数少ない京都にある南都(奈良)の宗派の寺だそうです。
このたび「親子で行く修学旅行」を体験して、中学生のときの修学旅行と、同じく中学生のときに学校で教わったある言葉が浮かびました。
「少しのことにも、先達はあらまほしき事なり」(吉田兼好『徒然草』 第52段「仁和寺にある法師」)
この「親子で行く修学旅行」は先述の通り、僧侶をはじめとする現地の人を通して直接、その歴史と文化に触れられるのが大きな特徴。やはり「先達」、かんたんにいえばそれに詳しい案内人がいるのといないのでは、得られるもの、その後に残るものは大きく変わってくるというのが実感で、『徒然草』を思い出したというわけです。
また、親子で一緒に話ながらそうした体験をすれば、子どもの理解も深まり、その興味関心を引き出すきっかけになるかもしれません。
人気の高い京都の観光は、バスが混雑している、渋滞や駐車場などクルマで巡るのがあまり容易ではないなど、子ども連れだと大変なこともあると思います。そうしたなか、移動は貸切バスにお任せで、「先達」のいる貸切の「特別授業」が受けられるこうしたツアーは有力な選択肢になるでしょう。
ちなみに、代金は東京・品川発着の1泊2日、行先が京都の場合は大人1人4万2800円、子ども1人3万3800円で、中学生まで子ども扱いです。通常、東京?京都間の新幹線は、乗車券と特急券をあわせて大人1人で片道1万3910円(指定席、通常期)になります。また、さすが古都の「特別授業」です。畳に上がることが多いため、くれぐれも穴が空いていたりせぬよう、靴下の状態はに注意してください。筆者は今回、それを痛感しました。
・「親子で行く修学旅行(京都)」(JR東海ツアーズ)
http://www.jrtours.co.jp/kyoto_plan/oyako.html
・「親子で行く修学旅行(奈良)」(JR東海ツアーズ)
http://www.jrtours.co.jp/nara_plan/oyako.html